あすの図書館を考える -北日本地区図書館研修報告-

 

IT革命に象徴されるように社会全体の情報化が進み、インターネット・Eメール・携帯電話と日常の生活の中にその情報が溶け込みつつある。IT憲章において図書館のオンライン化が提唱されるなど、生涯学習施設として図書館の果たす役割もまた新たな対応を求められている。

このような中で、図書館の専門職員である司書の知識や技術の向上を図るために、文部省(現在は文部科学省)主催の「北日本地区図書館研修」が、平成12年11月13日から17日の5日間、福島県立図書館を会場に開催された。北海道立図書館からの参加を始めとして県内外から図書館のカウンターで利用者と接する中堅職員が53名集った。 研修は、基調講演と6つの講義があり、講師陣に図書館学の教鞭をとっている大学教授や図書館の現職職員など多彩な学識経験者を招き、これからの図書館について大きな力となる示唆を頂いた。

 

基調講演

これからの図書館活動

千葉経済大学短期大学部教授 図書館職員歴40年の竹内紀吉氏によるこれからの図書館活動についての講演。

公共図書館の持つ2つの無限定性、地域社会のありとあらゆる人への奉仕であることと、図書資料以外をも提供できることが生涯学習の要として見直され、改めて基本的人権・知的自由の保障をうたう教育機関として「公立図書館の無料の原則」が注目される。 しかし、図書館法の改正や図書館運営の委託化、派遣職員依存の職員削減などの不安材料も隠せない。これからの図書館活動は、地域の特性を判断し図書館のイメージを築いた上で、行政や報道機関へのPRなどを積極的に行う必要性がある。「厳しい状況なら守りではなく攻めていけ! まだ守る余裕など私たちにはない」と檄を飛ばす。

また、冷静に図書館運営を評価をすることを肝要とし、ユーザーとしての地域住民をしっかり把握すること、蔵書冊数・貸出冊数や利用状況の量的評価と職員の資質・専門化などの質的評価の視点をあげた。

 

生涯学習と図書館

福島学院短期大学教授 塚本繁氏の「図書館は知的コミュニケーションセンター 司書は生きがい探しのナビゲーター」という生涯学習論。

生涯学習は自分が生きて行くのに何が必要かという必要課題ではなく、何を望むかという要求課題であり、生きがいの探究がその根幹である。急激な技術革新と平均寿命が伸びるなど社会の状況が変わり、加えて国民の所得が増大し自由な時間が増えたこと、競争社会・学歴社会・偏差値万能主義が及ぼした閉鎖した教育の再構築が求められていることが大きい。

図書館のこれからの指標は、①住民の要求に沿う情報を積極的に提供すること ②図書資料に留まらず「生きがい探しのナビゲーターとしての役割を果たすこと ③住民学習事業を展開することの三つを挙げた。

 

高齢者サービスと障害者サービス

大阪府立中之島図書館に勤務する前田章夫氏は、この2つのサービスを「図書館利用に障害のある人々へのサービス」と捉え、図書館が作り出しているバリアは、多様な身体的・環境的条件を持つ人たちのニーズに応じる資料やサービス、コミュニケーション・施設整備の環境を整えられない「図書館にこそ障害はある」と語る。

環境整備とサービスの違いを明確にし、障害者は特別な人ではないことを理解することが肝心である。利用の際に感じる恐怖心などの心理的圧迫は真っ先に考慮し対応しなければならない。

大阪公共図書館協会はこのたび『高齢者サービスを進めるために(提言)』をまとめた。

 

公共図書館における児童サービスの現状と課題

日本図書館協会児童青少年委員会委員長を努める大正大学助教授 中多泰子氏の児童サービス論。

児童図書館員の役割は、子どもと子どもの本を知るだけじゃなく、生活パターンを観察し人との関係を大事にする地域社会を知ることが必要。

一番大切なのは「選書」である。新刊書以外でもロングセラーやベストリーダーを購入する予算を確保し、IT情報を的確に入手し選択する力量が求められる。特に子どもの発達段階の理解を深め「比べ読み」を行い、適書を収集し、子どもに本を手渡す仕事を行わなければならない。

児童図書館員はその養成と研修・専門性の向上を心がけ、子どもが関係するあらゆるものとの連携協力を惜しまず励んでほしい。

 

図書館とボランティア

ボランティアの導入は「質」を維持する図書館側のコーディネートが鍵だいう浦安市立中央図書館長 常世田良氏の講義と、胃潰瘍になってしまったという浦和市立図書館 稲原守夫氏の事例発表。

アメリカなどのボランティア先進地域は住民自治としてボランティアが確立し、文化や社会の歴史が根本から違っているためただ言葉だけを持ってきて導入するには無理がある。図書館におけるボランティアは、「協力者」と位置づけた個人登録の方とサポーターとして地域住民との橋渡しとなっている「友の会」が存在する。これから求められるものは「専門分野を持った知的ボランティア」である。

その導入にあたっては職員の代替としては全く考えられず、住民の図書館活動に対する理解と利用拡大を図る「場の提供」として考えている。職員とボランティアの責任を明確化し相互の信頼関係を築く努力を重ねていきたい。

 

公共図書館のネットワーク展望

相互協力は両刃の剣という東京大学助教授 根本彰氏の講義と学校図書館と公共図書館の連携に取り組んだ市川市教育委員会指導主事 小林路子氏の事例発表。

ネットワークの意味するものは、1つの図書館では賄いきれない要求を図書館間の相互協力によって資料(情報)を提供し応えていくことである。その方法として、①生活圏の拡大などによる広域利用 ②協力貸出 ③協力レファレンスの3つがある。新たな展開として、インターネットによる書誌所在情報の入手や目録の提供などが考えられる。 しかし、他者依存が強くなると自立した図書館として機能しなくなり、対等の基本を肝に銘じ適正規模の図書館サービスを見失ってはならない。

公共図書館と学校とを結ぶネットワーク事業を進展させた市川市教育委員会では、学校図書館が学校・情報センターとして機能し始めたこと、公共図書館も学校支援の体制が充実し定期的なルートが確保されたことなど、館種をこえた連携が大きな成果をもたらした。

 

図書館行政と地域電子図書館のゆくえ

慶応大学教授であり文部省生涯学習審議会図書館専門委員の糸賀雅児氏によるホットな情報。

生涯学習審議会は、「望ましい基準」についての報告をまとめ、これからの図書館のあり方を示した。また日本図書館協会の町村図書館活動推進委員会では、情報技術を活用し図書館を中心としたまちづくりで地域を活性化する「Lプラン21」という21世紀の図書館振興をめざす政策を提言した。

地域電子図書館の構想は、情報化で広がる生涯学習の展望について紙媒体による資料(情報)と電子化された資料(情報)を有意義に連携させる「ハイブリットなサービス」の必要性や住民の情報リテラシーの育成支援等を指摘している。具体例を描いた報告が『2005年の図書館像』として文部省でまとめられ、資料提供から情報提供へさらに情報発信へと発想の転換が求められている。当面の課題は、現職図書館員の再教育であり、PCの操作に止まらずインターネットの活用方法や情報の選択・発進などに対応しうる研修が急務である。

また、図書館電子化にあわせた著作権法も2002年の改正の見通しで、例外規定の拡大や著作物の使用料の集中契約システム、公衆送信・インターネットのプリントアウトなど具体的な検討を行う予定である。

すべての研修に参加し強く感じたことは、時代の動きは、図書館に新しいサービスを要求し、専門職である司書もまたそれに対応すべき新しい知識・技術を必要とされることである。日々の自己研鑚と先を読む力を身につけていたいと思う。