令和元(2019)年度に紹介した「お薦めの1冊」

 

『学校図書館の出番です!』

肥田美代子/著 ポプラ社 2017.12

今の母親・父親世代にとって、学校図書館は「本が雑然と並んでいる」「色あせた古い本しかない」「誰もいないから埃っぽい」などのイメージが強く、訪れる必要性を感じない場所だったかもしれません。

しかし、学校図書館法の改正により平成9年より「司書教諭」配置が原則義務化され、平成27年より「学校司書」配置も努力義務化されました。その結果、多くの学校で司書教諭・学校司書が配置されるようになり、学校図書館の整備が進んでいます。いまや学校図書館は単なる余暇施設ではなく、調べもの学習で最初に訪れる調査施設、読書の動機付けを図るための教育施設など様々な役割を担う場所に生まれ変わりつつあります。

この本の著者は、国会議員として2回にわたる学校図書館法の大規模改正を推進してきました。法改正により大きな変化を迎える学校図書館のあり方について今一度、本書を読みながら思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

2019年4月22日 vol.179掲載

 

『英雄たちの食卓』

遠藤雅司/著 宝島社 2018.3

わたしたちの生きている社会には様々な人がいて、それぞれの生活があります。仕事をしたり、勉強をしたり、一日中のんびりしたり。生活は多種多様ですが、誰しもが何かを食して生きています。

本書は歴史上の19人の英雄たちにスポットを当て、それぞれの食にまつわるエピソードや、実際に食べていたであろう料理のレシピを紹介しています。

たとえば、16世紀、太陽の沈まぬ国といわれたスペインの王フェリペ2世ですが、お肉が大好きな王様でした。ローマ教皇に特免状をもらってまで食べていた肉料理とはどんなものだったのでしょうか。著者は実際に料理を作って食べ、写真も掲載しています。

食を通じて、歴史に名を残すような英雄たちの人間らしさを感じてみませんか。

2019年5月20日 vol.180掲載

 

『くらべておもしろ! いきもの図鑑 チャイルドブックこども百科』

今泉 忠明/監修 チャイルド本社 2018.7

イラストと写真がたくさんある、親子で楽しめる生き物図鑑です。背の高さ、色や角などといった見た目の特徴だけではなく、尻尾の使い方や水に潜る深さ、雌雄や親子の違い、巣を作る動物は何を使ってどんな形の巣を作るのかなど、生態についても様々な観点から比較しています。また、それぞれの得意なことや面白い表情、身を守るすごい技なども紹介されています。

2019年6月20日 vol.181掲載

 

『山のさざめき 川のとどろき』

金山町教育委員会/編著・発行 2019

2016年から金山町中央公民館が取り組んできた映像資料の調査・保存・活用事業の“かねやま「村の肖像」プロジェクト”で収集された金山町の人々が撮影・保管してきた明治~1969年頃までの写真と、発電所建設などに関する住民への聞き書きによって構成された本です。記念写真、日常の写真、身近な風景の写真から父母、祖父母もこのように暮らしていただろうかと想像が広がる一冊です。

2019年7月22日 vol.182掲載

 

『クマのプーさん原作と原画の世界』

アンマリー・ビルクロウ、エマ・ロウズ 著/阿部公子 日本語版監修/富原まさ江 訳 玄光社 2019

今年の2月~6月にかけて、東京の「Bunkamuraザ・ミュージアム」と大坂の「あべのハルカス美術館」にて、「クマのプーさん展」が開催されました。画家E.H.シェパードの原画所蔵数が世界最大規模のイギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)からの鉛筆素描画を始め200点以上の作品が展示されました。

この本には、その展示作品を含め、作者A.A.ミルンと画家E.H.シェパードによってクマのプーさんはどのように生み出されたのか、また二人の家族についての物語など創作の裏側についても細かく記されています。また、プーさんやその仲間たちのモデルとなった人形なども写真で掲載されています。

世界中で愛され続けているクマのプーさんの物語をより深く味わうことのできる一冊です。この夏、童心に戻って百町森の世界へ思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

2019年8月20日 vol.183掲載

 

『陛下、お味はいかがでしょう。『天皇の料理番』の絵日記』

工藤 極/著 徳間書店 2018

「天皇の料理番」という言葉を聞いたことのある人は多いと思います。文字通り天皇家の食事を用意する料理人のことであり、過去に三度テレビドラマ化もされました。本書では、著者が宮内庁大膳課に仕官していたときの日常やそれを取り巻く人々、ハプニングなどが「絵日記」の挿絵と共に描かれています。また、巻末には料理のレシピも掲載されています。皇室の食卓の裏舞台が描かれた一冊です。

2019年9月20日 vol.184掲載

 

『日本の部活BUKATSU 文化と心理・行動を読み解く』

尾見 康博/著 ちとせプレス 2019

近年、行き過ぎた指導や体罰などにより、日本の部活動がニュースで取り上げられることが多くなりました。この本の著者は、運動部を中心に、アメリカの部活動と比較しつつ、日本の部活動が持つ特徴を分析しています。指導される生徒の心理や指導する教師の心理、そして部活動そのものの在り方を考えることができる一冊です。

2019年10月21日 vol.185掲載

 

『思わず考えちゃう』

ヨシタケ シンスケ/著 新潮社 2019.3

絵本作家のヨシタケさんは講演などをする際、時間が余った時は「普段、勝手に描いているイラスト(スケッチ)を何枚か見ていただいて、そのイラストに対するコメントをしていく」ことで場を持たせるのだそうです。本書はその内容をまとめたものです。子どもの行動、出先で見掛けた他人のやり取りなど、ついつい考えちゃう絵本作家の、日常で見つけた面白さや気づきが詰まった一冊です。

2019年11月20日 vol.186掲載

 

『白銀の墟(おか) 玄(くろ)の月 1~4』

小野不由美/著 新潮社 2019

大人気ファンタジー「十二国記シリーズ」の18年ぶりの長編がついに刊行されました。王を選ぶ神獣・麒麟が姿を消し、王も消息を絶って6年、荒廃した戴国に麒麟が戻り、王を探す旅が始まる…。ファンタジーではありますが、私はこのシリーズを読むといつも今の世界のこと、政治のこと、社会のことを考えます。ファンタジーが苦手な方にも読んでいただきたい、そんな1冊です。シリーズ既刊を読んでいなくても楽しめます。

2019年12月20日 vol.187掲載

 

『Smart City5.0 地方創生を加速する都市OS』

海老原城一、中村彰二朗/著 インプレス 2019

日本全国でIoT(モノのインターネット)を活用して街全体を効率化したり、生活をより便利にしたりする「スマートシティ」への取組が始まっています。

その中で福島県内の取組に焦点を当ててみると、2018年6月、総務省「情報通信月間」の総務大臣賞を受賞した会津若松市のスマートシティプロジェクトが挙げられます。本プロジェクトは、東日本大震災をきっかけに、会津若松市、会津大学、アクセンチュア等の国内外企業による産官学の連携から始まり、ICTを活用した地方創生に取り組んでいます。

本著はこのプロジェクトの詳細を説明しています。デジタルを活用した「都市OS」と呼ばれるアーキテクチャーを開発し、情報提供ポータル「会津若松+(プラス)」などのサービス展開につなげていることや、ローカルマネジメント法人やオプトインなどのモデルを採用し、市民主導の事業を推進していること、そしてこの事業に携わる人々のプロジェクトに賭ける想いを掘り下げた対談など、最先端でチャレンジングな内容の数々に、ページをめくるたびにワクワクが膨らんでいきます。

さらに特筆すべきは、この事業は単なる復興にとどまらず、「Smart city5.0」と呼ぶ動きへと現在も進んでいることです。2019年4月には、次世代を担うデジタル人材の育成と定着の戦略拠点である「スマートシティAiCT(アイクト)」が会津若松市の中心部に竣工されました。これら一連の取組は、スマートシティの可能性を示唆し、地方創生の実現に向けた新しい都市の在り方を示しています。地域開発の牽引役としての会津若松市の取組に、今後も注目していきたいです。

2020年1月20日 vol.188掲載

 

『そのとき、西洋では 時代で比べる日本美術と西洋美術』

宮下規久朗/著 小学館 2019

「美術」と一口に言っても様々なものがあります。日本・西洋、建築・彫刻・絵画…など地域と形態だけでも様々です。本書は、先史時代から現代まで時代ごとに日本美術と西洋美術を比較して書かれています。時代背景と主な作品、そして考察という流れで論じられ、巻末には日本・西洋美術史と本編で紹介された作品が整理された略年表が掲載されています。

今後の美術鑑賞において、視点を増やすきっかけとなるような一冊です。

2020年2月20日 vol.189掲載

 

『おはなし 聞いて語って』

東京子ども図書館/編集 東京子ども図書館 2019

皆さんは、「お話会」に参加したことがありますか?「お話会」は、図書館で開催しているイベントの一つで、主に読み聞かせやストーリーテリング、わらべ歌などを子ども向けに行います。県立図書館では、「ちいさなおはなしかい」を毎月第2木曜日10時30分~11時で開催しています。対象は、0歳~3歳くらいまでの赤ちゃんと保護者で、一緒にわらべうたやおはなしを楽しむプログラムです。

本著は、その「お話会」を長年にわたり続けてきている「東京子ども図書館」で語られたお話(1972年~2019年まで毎月開催)を全て収録したプログラム集です。東京子ども図書館の「月例お話会」は、大人が対象の会で、ストーリーテリングのみのプログラム構成になっています。私も参加したことがありますが、各国で長く語り継がれ、愛され続けている昔話の数々は、子どもたちはもちろんのこと、大人たちをも魅了する力をもっています。

「月例お話会」では同じお話が時代を経て何度も語られていますが、語り手の個性によって異なる世界が広がるのも、その面白さの一つです。子どもに物語る大人にこそ、脈々と受け継がれてきた物語の豊かな世界に想像を膨らませ、次世代に語り伝えてもらえたら、そして何より童心に戻って楽しんでもらえたらと思います。

なお、前書きは多くの語り手を育ててきた東京子ども図書館名誉理事長の松岡享子さん、カラー口絵にはお話会の折に配布した手づくりプログラムの数々、巻末には話名索引と出典リストが付いています。

2020年3月23日 vol.190掲載