福島県立図書館所蔵 貴重郷土資料探照 6 「福島県管内郡村農具の圖」

 

『福島県立博物館調査報告第25集』に、この資料は写真版で収録、紹介されている。同館佐々木長生氏は、「明治5年に大蔵省は各府県に対し、管内・郡村を取り調べ、農具を一通りずつ買い上げて四月晦日まで差し出すよう布告した。この布告は、後に農具現品の提出に及ばず、その報告をのみ提出するよう再布告した。」と解説している。福島県が提出した報告書の控が、『福島県管内郡村農具之圖』である。大きさは約27cm×18cm、枚数は32丁。安達郡45点、安積郡85点、白河岩瀬郡21点、各郡ともに描かれている農具の種類はほぼ同じである。この頃は、開墾・養蚕などに重点が置かれ、県内では安積などの開墾地で、西洋農具や馬耕が早くから取り入れられていた。しかし、一般農家にそれらが取り入れられていくのはもう少し先のことであり、ここで見られるものは当時使われていた普通農具である。

資料には、旧い農具と新しい農具が同時に報告されている場合もある。新旧の農具が同時期に使用されていたことが推測される。また、郡によっては旧い農具が報告されていない。同じ年代とはいえ、地域によって農業技術に差があったことも窺える。農業の改良が明治10年代から行われていくため、この調査が行われた時期は、農業技術発展の途上であったと思われる。明治16年(1883)の『第2回内国勧業博覧会出品農具見取図』(福島県勧業課編)には西洋農具を模倣したらしい農具が記載されている。道具は作業効率の良さなどのために、改良されていくのだろう。

各郡の農具の描き方を見てみよう。安達郡は絵の具で彩色され、名称のみが付けられ、一つ一つの絵が大きく描かれている。安積郡は墨一色で描かれており、安達郡同様に農具の絵は大きい。名称のほかには寸法も付けられている。福島県立博物館ではこの寸法を元に、「三本鍬」を復元作成した。当時の農具が再現できるほどにその寸法は詳細である。白河岩瀬郡は彩色され、名称・寸法ともに付けられており、農具の絵は小さく描かれている。先の二地域と比べると描かれている農具の数は少ない。 

今も使われているもの、現在ではその役割を機械に譲ったもの、と様々な農具が描かれている。農具絵図を通して、当時の各地の風土や特徴、また農業技術の変遷を見ることもできる貴重な資料である。その保存と活用を図るために、CD-ROM化等の媒体変換が今後の課題である。

〈調査課:寺西麻美〉