本の紹介 心に虹をかける本 -子ども読書年にちなんで-

 

今年5月に「子ども読書年」の主役である子どもたちに直接手渡していけるものとして「心に虹をかける本 子どもたちへ! 図書館員が選んだ50冊」を作成しました。 まず、県内の公共図書館36館(分館を含む)の職員1人1人に「子どもたちへ手渡したい本」を3冊ずつ推薦していただきました。

各館から集まったものを集計したところ、回答点数は全部で246点になりました。内容としては、古典的な名作もあれば、今年になって刊行された新しい本もありましたし、幼児向けの絵本から、ヤングアダルト向けの文学までと、広範なものでした。職員1人1人が、自分の少年少女時代からの思い出に浸りながら選んでくれたもの、という感慨があります。

次に、それらの中から50冊に絞る作業をしました。複数回答いただいたものは優先的に選びました。一番票数の集まったのは『ナルニア国ものがたり』の7票、次いで、『コロボックル物語』の5票でした。

また、1人の作者の複数の本が選ばれていたものについては、できるだけ1人1作品にしました。たとえば、加古里子は『からすのパンやさん』『だるまちゃんとてんぐちゃん』という絵本も推薦されましたが、ノンフィクションの推薦が少なかったこともあって、あえて科学絵本の『海』を選びました。

また、内容から大きく4つのジャンル【幼い子どもたちへ・絵本】【物語の世界へ】【児童文学】【ノンフィクション】に分けました。

こうして「心に虹をかける本」ができました。

今回、5,000部作成したリーフレットは、県内公共図書館と公民館図書室をはじめ、県内の公立幼稚園・小学校・中学校・市町村教育委員会にも配布しました。子どもを取り巻く大人たち=先生方にも「子どもの本」に関心を持ち、知っていただきたいという思いからです。

うれしいことに、小学校の先生から「この本を購入したいので金額を教えて欲しい」というお問い合わせや、「すでに手に入らない本を読みたいので貸して欲しい」という申し込みをいただきました。

紹介した本をはじめ、たくさんの本に触れることで、子どもたちの心が潤い、虹色に輝くことを図書館の職員全員が願っています。

 

幼い子どもたちへ・絵本

『ひとまねこざる』 H・A・レイ作 光吉夏弥/訳 岩波書店 1961

「ジョージは、かわいいこざるでしたが、とてもしりたがりやでした」で始まる楽しいお話です。こざるならではの奇想天外なおもいつきや、それに振り回される大人たちのお話は、世界中の子どもたちに愛されています。

好奇心旺盛なジョージが巻き起こす騒動は、『ひとまねこざるときいろいぼうし』から『ろけっとこざる』『たこをあげるひとまねこざる』『ひとまねこざるびょういんへいく』等へと続きます。

作品の大部分は夫婦の共作で、基本的には夫人のマーガレットが文を、レイが絵を担当しました。

『もりのなか』 マリー・ホール・エッツ作 まさきるりこ/訳 福音館書店 1963

この絵本は、エッツが幼い頃に過ごした森での思い出を描いた作品といわれています。

児童文学作家の角野栄子さんは、この作品について「絵の中に物語があり、絵の余白にも物語がある。本の中にも物語があり、本のあとにも物語がある。」と述べています。

この作品がアメリカで出版されたのは1944年です。半世紀もの間、世界中で読まれてきた理由は、ゆったりとした時間の中で、この本を子どもと共に楽しめばわかります。

続きのお話として1953年に『またもりへ』(邦訳1969)が出版されています。

『ちいさいおうち』 バージニア・リーバートン作 石井桃子/訳 岩波書店 1956

第一面の絵の中で、木の下に描かれているのは、バートンの家族(長男アリス・次男マイケル・夫デメトリオス)です。バートンの作品はこの息子たちのために描かれたものです。

バートンはこの作品で、アメリカ図書館協会が前年度の最優秀絵本として表彰するコルデコット賞を1943年度に受賞しています。

 

物語の世界へ

『のはらうたⅠ・Ⅱ・Ⅲ』 工藤直子/著 童話館 1948から

野原に住む虫、花、動物、風や水のつぶやく詩が、詩人工藤直子さんの言葉を借りて形となりました。かぜみつるくん、てんとうむしまるくん、こぐまきょうこちゃんたちの声に耳を傾けていると、野原に行って語り合いたい気持ちになります。

著者は、詩や童話を書くとき「自分の内側にかくれているこどもの頃の自分といっしょに、あそびながら書いています」(『ライオンのしっぽ』より)と言っています。

『かもさんおとおり』 ロバート・マックロスキー/作 渡辺茂男/訳 福音館書店 1965

鴨のマラード夫妻は、ボストンの川の中州で卵を生み、ひなを育てます。そこから公園のすみかまで、お巡りさん達を巻き込んだ、マラード奥さんと8羽のひなたちの行進が始まります。

作者は、いきいきとした鴨の姿を描くため、四羽のあひるをアパートに連れ込んで、スケッチ・ブックを持って追いかけていたということです。

この作品は、1942年度のコルデコット賞を受賞しました。

児童文学

『ナルニア国ものがたり 全7巻』 C・S・ルイス著 瀬田貞二/訳 岩波書店 1966

第一次世界大戦の戦火を逃れて疎開した先で、ピーター・スーザン・エドマンド・ルーシーの兄弟姉妹は古い衣装ダンスに入ります。そこには、フォーンや小人、動物たちの住むナルニア国がひろがっていました。そこで、4人は魔女たちと戦い、ナルニア国を救います。

この作品は、ルイスがトールキンの『指輪物語』に刺激を受けて書いたと言われています。

著者のルイスは、1898年生まれ。イギリスの文学者であり神学者です。オックスフォード大学、ケンブリッジ大学で英文学の教授を務めました。

第七巻『さいごの戦い』で1957年度カーネギー賞を受賞しています。

『コロボックル物語 全5巻・別巻』 佐藤さとる/著 講談社 1959から

日本に昔から住んでいるコロボックルのお話です。「目に見えないものは存在しない」のではないのです。私たちの感じる力・想像力が甦るようなファンタジーです。

戦後日本の児童文学を代表する作品の一つで、初版は講談社から若菜珪のさし絵で1959年に刊行されました。その後、村上勉がさし絵を担当し、コロボックルたちを描いています。

 

ノンフィクション

『海』 加古里子/文・絵 福音館書店 1969

大型の科学絵本です。私たちがよく目にする海岸の生き物たちを紹介することから、深海へ、そして地球全体へと目を向けていきます。

この作品の構想は、著者が『かわ』という絵本を書き終えたところからはじまっています。海洋学の専門家ではない著者が、何年もかけて調べて書いたものです。それだけに、説明がわかりやすく、小さい読者にも読めるような配慮があります。

姉妹編として『地球』『宇宙』といった作品があります。

子ども読書年の今年5月5日に「国際子ども図書館」が一部開館しました。ここでは、資料の収集・保存・提供の他に調査研究も行われ、その成果の1つとして資料の展示が行われています。開館記念第1回の展示は「子どもの本・翻訳の歩み展」と題して行われました。その図録が発行されています。

『子どもの本・翻訳の歩み展展示会図録』国立国会図書館/編集・発行 日本 国際児童図書評議会/企画・執筆 2000

日本児童文学の時代を次の7つに区切り、それに沿って作品紹介と解説を加えています。

  1. 子どもの文学の誕生 (1868から1909)
  2. 成長する子どもの文学 (1910から1917)
  3. 花開く時代 (1918から1926)
  4. 広がる子どもの本 (1927から1937)
  5. 戦争をはさんで (1938から1949)
  6. 「近代」から「現代」へ (1950から1958)
  7. 「現代」の出発 (1959から1969)

また、「翻訳児童文学出版年表」では、1848年の『漂荒紀事(ロビンソン・クルーソー)』(デュフォー/作 黒田行元/訳)から1969年の『ロージーちゃんのひみつ』(センダック/作 中村妙子/訳)まで約700点を収録しています。

なかなか触れることのできない作品の展示図録として、また児童文学史研究の資料として利用できるものです。

今後も、国際子ども図書館の研究成果として、様々な資料が発行されることを期待します。

参考文献

  • 『児童文学者人名事典 全四巻』
  • 『3人の絵本作家』他

<振興課>